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PROFILE

光彫り作家 ゆるかわふう

1980年 大阪府出身

2006年 東京藝術大学美術学部建築科卒業

2008年 東京藝術大学大学院美術研究科芸術学(美術解剖学)修了

2008-11年  東京藝術大学大学院美術研究科教育研究助手

2023-24年 東京藝術大学大学院美術研究科教育研究助手

修士論文「枯山水庭園と自然の比較 -開かれた石の内部世界-」

​主な展示実績

​​2008年  9月 グループ展  「美術解剖学展 vol.1」@芸大上野校地 東京

​2009年  9月 グループ展  「美術解剖学展 vol.2」@芸大上野校地 東京

​2015年11月 個展      第2回湯河原真鶴アート散歩参加 神奈川

​2016年  8月 グループ展  「exhibition IBA」@3331アーツ千代田 東京

​2016年11月 個展      第3回湯河原真鶴アート散歩参加  神奈川

​2017年11月 個展      第4回湯河原真鶴アート散歩参加  神奈川

​2018年  2月 イベント展示    湯河原梅林「梅の宴」ライトアップ企画展示 神奈川

​2018年  3月 展覧会       現代美術作家展 @町立湯河原美術館 神奈川

​2018年11月 個展      第5回湯河原真鶴アート散歩参加  神奈川

​2019年  2月 イベント展示  狂言師大藏彌太郎千虎 舞台展示 神奈川

​2019年  2月 イベント展示  湯河原梅林「梅の宴」ライトアップ企画展示  神奈川

​2019年  4月 個展        「DEEP CURRENT」@ギャラリーアートポイント 東京 銀座

​2019年  6月 イベント展示  臨済宗東際寺「お寺魅力体験プロジェクト」 神奈川県小田原市

​2019年  7月 イベント展示  エクシブ湯河原離宮 夏休み限定コラボレーション企画 神奈川

​2019年  9月 イベント展示  富士屋旅館 湯河原イベント「アカリテラス」 神奈川 

​2019年 11月 個展       第6回湯河原真鶴アート散歩参加  神奈川 

​2020年  2月 イベント展示  狂言師大藏彌太郎千虎 舞台展示 神奈川

2020年  10月 企画参加   「アートにエールを!東京プロジェクト」東京都 

2021年6月〜8月 個展     コンマサアートビルディング 名古屋

2021年  8月 イベント展示  エクシブ湯河原離宮 コラボレーション企画展示

​2021年 11月 個展       第7回湯河原真鶴アート散歩参加  神奈川

2022年1月〜3月 展覧会   神戸ファッション美術館 兵庫

2022年2月〜3月 芸術祭  「無人駅の芸術祭/大井川」静岡県島田市 グループ参加

2022年7月〜 常設展示    湯河原温泉 上野屋旅館「上野屋別邸」作品常設展示 神奈川 

2022年10月〜1月 個展    コンマサアートビルディング 名古屋

2022年10月〜12月 展覧会   そごう美術館 神奈川

2023年5月〜7月 展覧会   福岡アジア美術館

2023年6月 舞台美術     黒木瞳 朗読劇『ルビンの壺が割れた』 紀伊國屋サザンシアター

2023年9月 イベント展示   国営ひたち海浜公園 奥の屋 茨城

2023年11月 個展      第9回湯河原真鶴アート散歩 神奈川

2024年3月 展覧会     「光と時間 その先へ ゆるかわふう 京都展2024 in 和中庵」 京都

2024年5〜6月 展覧会(予定) 一支国博物館 長崎

2024年7〜8月 展覧会(予定) 日中友好会館美術館 東京 

2024年9〜12月 展覧会(予定)ウッドワン美術館 広島

 

Music & Performance

●クラシック音楽

2016年5月   コラボコンサート with NPO法人「Mのつどい」 神奈川

2017年11月 コラボコンサート with NPO法人「Mのつどい」 神奈川

2019年11月 クラヴィコードコンサート 神奈川 

  ベルギー王室礼拝堂主席オルガニスト綿谷優子

  フルーティスト/リコーダー奏者みつとみ俊郎

2021年11月 コラボコンサート with NPO法人「Mのつどい」 神奈川

2022年11月 コラボコンサート with NPO法人「Mのつどい」 神奈川

●狂言  2019年2月 2020年2月

「奏狂言×KATARI」狂言師大藏彌太郎千虎他 湯河原観光会館

●沖縄民謡 2017年11月、2018年4月

三線奏者 あしゃぎ氏

Workshop & Lecture

●ワークショップ

2017年11月 ワークショップ 「みんなで作ろう湯河原水族館」町立湯河原美術館 神奈川

2023年  5月 ワークショップ 私立水戸葵陵高校 全校生徒対象 「光の壁」制作

●講演

2023年  3月 湯河原町立湯河原小学校 卒業記念講演

​作家が大切にしていること・今後の夢

①日本生まれの古くて新しい芸術を世界へ

光彫り作品は、建築用断熱材(スタイロフォーム)やLED照明といった工業製品を使って、宇宙空間や成層圏、海中など、20世紀になってから私たちが初めて見ることができるようになった世界を主に描いています。そのような現代の視点から眺める極限の世界は、油絵の具や岩絵の具などの旧来型の画材で表現するのはとても困難であり、スタイロフォームでしか出せない色の鮮やかさ、質感、奥行きや立体感を活かして作品を制作しています。

また、光彫り作品は和室の襖絵のような額縁で構成され、光の陰影のみで描かれている点は水墨画を想わせます。スタイロフォームを使って海を表現するアイディアは、白砂を敷いて水を使わずに大海原を表現した禅寺の枯山水庭園からヒントを得ています。

このように、日本人が培ってきた文化を継承しながら、工業製品を使って現代の視点から見た世界を描き、古くて新しい日本の文化として、世界に発信していくことを目標にしています。

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②隠れた原石に光を当てる

茶人・千利休は、朝鮮半島で生活食器として身近に使われていた素朴な茶碗に目をつけ、「わびさび」という概念を与えて、今までになかった価値を創造しました。また、20世紀の現代美術の父とも言われるマルセル・デュシャンは、男性用便器にサインをして展示することで工業製品を美術作品に変身させました。

それまで見向きもされなかった日用品を別の視点から眺め、そこに新しく概念を与えることで、価値が大きく変わって輝き出すといったところに「アート」のダイナミズムがあります。スタイロフォームも、壁や床の内側で断熱の効果を発揮していますが、普段は人の目に触れることもなく、製品に秘められた鮮やかな色彩や、美術品としての価値も知られることはありませんでした。

私たちの価値基準のほとんどは、どこかの誰かが決めたものを鵜呑みにしているだけかもしれません。誰の目にも触れず、粗雑に扱われていたものに光を当て、ひと手間加えるだけで突然それが輝き出す。それがアートの魅力だと思っています。

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​③常設の美術館をつくる。

今まで、光彫り作品はテレビや新聞などのメディアで多数紹介されてきましたが、アートの醍醐味はディスプレイ画面や印刷物では到底表すことができない「実物」が持つ力を体験するところです。

特に光彫り作品はサイズが大きく、カメラでは捉えられない色鮮やかな光を放ち、細部まで緻密に、立体的に表現されているので、実物の前に立って鑑賞するしかその魅力を伝えることができません。近くで見たり、離れて見たり、観る位置で絵の印象が変わります。また、スタイロフォームの鮮やかな青色も時間が経つにつれてその見え方が変わってきます。

年に数回ほど展示する機会がありますが、僅かな期間でしかありません。
できるだけ多くの方々に作品をご覧になって頂きたいという想いと、皆様とともに新しい「遊び」を作り上げていける「創造の場」を設けるため、常設の美術館をつくりたいと考えるようになりました。

《幼少期〜高校生》
・京都市立芸大日本画科を卒業した両親をもち、図工や工作が得意な幼少時代。
​・ピカソの絵が好きで画集を見ながら真似たり、模写する。
・海にキャンプに行くと、「家に帰りたくない」と親にだだをこねるほど自然が好き。
・美術館に連れて行かれると、絵画よりも建築に関心がいく。
・美術教師だった父親が「これからは脳の時代だ」と養老孟司の本を読みあさる。

光彫り技法が誕生するまで

解剖学者養老孟司氏との記念写真

解剖学者養老孟司氏と。@東京藝術大学

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東京芸大建築科時代の制作風景。スタイロフォーム.JPG

《美術解剖学研究室》
・解剖学者養老孟司氏の弟子、布施英利准教授が教官を務める美術解剖学研究室に進学。
・美術解剖学研究室は明治時代に森鴎外が創設した日本で唯一の研究室。
・人体構造の把握や自然観察を通して芸術を学ぶレオナルド・ダ・ヴィンチがはじめた学問。
・「美術は自然に学べ」という理念のもと、建築と自然が合わさった庭園芸術の研究を始める。

東京藝術大学美術解剖学研究室の授業風景
東京藝術大学美術解剖学研究室の授業風景

《建築学部時代》
・画家にはなるなとの親のアドバイスもあり、美術系の建築を学べる東京芸大に2浪で合格。
・発泡断熱材のスタイロフォームなどを使って建築模型を作る日々。
・しかし、だんだんと都市的な思考やセンスに違和感をおぼえ、進路に悩みだす。
・卒業間際、単位取得のために受けた一般教養の授業「美術解剖学」を受け感動する。

・ダイビングを本格的にはじめ、生命の起源である海の様子を観察する。
・人工の海であるアクアリウムの世界を知るべく海水魚屋でアルバイトを経験。
・湯河原の山中に建つ廃旅館を自在に改良して住む布施氏の生き方に憧れる。
・解剖学者故三木成夫氏の著作に感銘を受け、胎児と生命進化の歴史に傾倒する。
・修士論文は「枯山水庭園と自然の比較」について執筆。

伊豆大島でのダイビング講習風景
沖縄慶良間諸島でのダイビングでウミガメを眺める風景.jpg

・2008年、美術解剖学研究室の有志でグループ展を開催する。
・建築科時代に慣れ親しんだスタイロフォームを使い、茶室「海鼠庵(なまこあん)」を制作。
・四方の壁面と天井が青色に光る海中をテーマにした二畳大の室内空間を制作。

・ナマコやサンゴなどの無脊椎動物と、人間の内臓器官の共鳴を狙った作品。
・自身も神奈川県真鶴町に引っ越し、海とともに暮らす。

海中をテーマにした青く光る茶室に着物を着た女性がいる風景

・その後、湯河原町の旧幼稚園に移り住み、本格的に光彫り作品を制作。
・地域のアートイベントにクジラの作品を出展し、好評を得る。
・湯河原町の観光事業にも参加し、テレビ新聞をはじめ多くのメディア取材を受ける。
​・美術館や銀座のギャラリー、ホテルや旅館での展示も実現させ、現代に至る。

青く光るクジラの大作品の前に立つ少女の姿
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光彫りの画家・ゆるかわふうの世界

 

布施英利(美術批評家・東京藝術大学美術学部教授)

 

 江戸時代の奇想の画家・伊藤若冲に『象と鯨図屏風』という絵がある。それまでの日本の絵画では、鶴などの鳥や花が描かれるべきはずの屏風に、鯨や象という巨体の動物が描かれる。奇想の画家の、奇想たる所以だ。ゆるかわふうの鯨をそして象を描いた作品を最初に見たときに思ったのは、その伊藤若冲の屏風のことだった。

しかし若冲とゆるかわふうの鯨は、そして象も、ずいぶん違う。ゆるかわは写真のようにリアルに描き、しかもそのイメージを作っているのは「光そのもの」なのだ。それが光彫りという技法の絵画だ。そんなゆるかわふうの世界を見ていきたい。

 はじまりは茶室だった。ゆるかわは、東京藝術大学の大学院で私が担当している研究室を出て、しばらく助手をしていた。大学院に入る前は建築科の学生だった。そんなゆるかわが、大学内でのグループ展で茶室を作った。2008年のことで「海鼠庵(なまこあん)」と名付けられたその空間に入ると、壁や天井の素材がレリーフのように彫られて、そこに透過した光の明暗で絵が描かれている。光彫りの始まりだ。

 それから暫くして、神奈川県の湯河原町にある元・幼稚園の建物をアトリエにして、その講堂で制作した光彫りによる鯨の作品が発表した。ゆるかわは、身長が180センチを超える背の高い人なのだが、幼稚園の建物は、子どものサイズ用にできているので、まるで小人の国に迷い込んだガリバーのような姿で、その作品の前に立っていた姿を鮮明に覚えている。

 ゆるかわは次々と絵を描き始めた。もともと建築専攻の出身なので、茶室のような空間を作る道に進むのかと思っていた。それは光彫りという独自の技法によるものであったが、ともあれ建築ではなく、絵である。ゆるかわの両親は日本画家で、そんなD N Aが顔を出したのかもしれない。鯨の次は象、そして白熊や、さらには鳥、月と雲など、そのモチーフはどんどん日本画的なものへと接近していった。

 そんなゆるかわの画業に目をつけたのは、テレビだった。ゆるかわの作品は、そしてゆるかわ自身が、テレビに出演する機会も増えた。日テレの「ヒルナンデス」、読売テレビの「ミヤネ屋」、フジテレビの「めざましテレビ」に出演し、その光彫りの、ただの青い建築材かと思っていたものに、光を点灯すると、突然に鮮やかなイメージが現れ、それがテレビスタジオの出演者たちの感嘆の声を誘った。やがてはモデルの藤田ニコルさんを描く、という機会にも恵まれた。そのようにゆるかわふうの世界は、美術とは縁遠い人の心を一瞬で掴む力を持っている。光によって絵が「現れる」瞬間の驚きは、その光彫りという技法の発明によるところが大きい。

 では、アートの文脈でゆるかわふうの世界を見たとき、とくに光彫りという技法は、どのように評価できるのか。そのことも書いてみたい。光彫りの独自性は、なによりその画材の選択から始まる。絵を描くには、紙や絵具や筆が必要だが、それらは普通、美術専門の画材店で売っている。日本画の岩絵具など、それだけを専門に扱う店もある。プロの画家は、そういうところから画材を入手して作品制作をする。ところがゆるかわふうの光彫りに必要な画材は、町のホームセンターで入手する。絵画でいう紙やキャンバスに相当するスタイロフォームも、それを削ったり掘ったりする電気ゴテも、もちろん照明の蛍光灯も、どれもホームセンターに売っているものばかりだ。そんな画材の仕入れ、制作の光景というのは、これまでの画家のアトリエとは随分と違う。そこが新しいし「現代」という時代の息吹も感じさせる。

 そもそも20世紀以降の現代アートというのは、既存の美術の枠組みから離れるのが主流でもあった。工業製品の便器を『泉』と題して美術館に展示したマルセル・デュシャンのレディメイドの作品からして、美術の画材ではなく日常品をアートにしていた。絵の具の雫を滴らせる技法で、新しい絵画の可能性を切り拓いたジャクソン・ポロックも、美術用の絵の具ではなく、大工が使うペンキやエナメル溶剤で抽象画を描いた。その意味では、ホームセンターで作品制作に必要なあれこれを入手するゆるかわふうの手法は、アートの正統的な姿と言うことすらできる。これは現代アートの、レディメイドの延長にある美術と言ってもよい。

 そしてなによりも、ホームセンターで画材(?)を調達するゆるかわのやり方は、いかにも建築を専攻した者らしくもある。そうなのだ。ホームセンターに売っているのは、建築資材(!)なのだから。ゆるかわふうは、自身の歩んできた道を、そのまま作品の技法として体現している。

 そしてゆるかわは、これまでの光彫りの技法から、さらに新しい光の絵画への試みを踏み出した。光彫りの絵を、不透明なアクリルでカバーし、その光のトーンをぼかした作品を作り始めたのだ。そこには、淡く明滅する、靄にかかったような光景が生まれた。日本の風土は湿度のせいで霧が多く発生し、水墨画などでも霧によるぼんやりとした風景が多く描かれてきた。ゆるかわは、それを墨ではなく「光」そのもので表現し始めた。新しい美の誕生だ。

 この新しいシリーズの作品には、光や色彩の「グラデーション」があるだけで、そこには明瞭な線はない。光彫りの、スタイロフォームの画面に近づいた時の、まるでノミで彫った木彫のような切れ込みも光彫りの魅力であったが、そういう線のない、移ろいゆく光や色彩だけが描きだす光景も、また魅力的だ。『モナリザ』を描いたレオナルド・ダ・ヴィンチは、この世界には輪郭線というものはないと考え、スフマートというぼかしの技法で人物の顔などを描写したが、ゆるかわの新しいシリーズも、光による現代のスフマート技法と言えるところもある。

 ともあれ、美術というのは、何より「技法」の開発である。ダ・ヴィンチも、それまでのフレスコ絵画から、油画的な新しい技法を開発し、それによって新しいスタイルの絵を描いた。

ゆるかわも、まずは新しい技法を探究する。そして「新しい絵画」は、技法の後から付いてくる。それが、ゆるかわふうの美の世界なのだ。

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